「こころの処方箋」/ 河合 隼雄 (1998年) 編集長haruの心に効く今日の一冊
2018/12/24

こんにちは。編集長のharuです。
ライターのakiにも、物語/絵本/小説メインの書評を書いてもらうのですが、
私haruもエッセイや哲学書、新書をメインに書評を書いていきます。
書評の一冊目、なんの本にするのかとても迷いましたが、中学生の頃からの大切な一冊
ぼろぼろに擦り切れるくらい何度も読んだ、私のバイブル
「こころの処方箋」をご紹介します。
1から55までの「こころに効く処方箋」
私はこの本と中学生の時に出合いました。小さな文庫本で、500円くらいでしたでしょうか。
水彩で溶けるような水色の表紙とタイトルに惹かれて、当時の私はこの本を手に取り
中身をパラパラと見ているうちに、魅力的な各章のタイトルに惹かれ
一ヶ月のお小遣い、500円と引き換えに家に連れて帰ったのでした。
この本は今からちょうど20年前、1998年に心理学者の故 河合 隼雄さんが書かれた本です。
河合隼雄さんは臨床心理学者で、文化庁長官も務められた方です。(以降は敬意と親しみをこめて、河合先生とお呼びします。)
日本人の精神構造を考察し続けられ、物語世界にもとても造詣が深かった方。
そんな「こころのプロ」の河合先生が書かれた、この「こころの処方箋」には
1から55までの「こころに効く処方箋」が簡潔に書かれています。
55の処方箋はひとつひとつとてもユニークで、どこかちょっぴりトリッキー。
でもその意味をじっくり考えて、そして自分の人生で起きるできごとに照らし合わせていくと
その意味がとてもとてもよく分かり、自分に染み込んでくるような気がするのです。
私のお気に入りの「処方箋」
中学生の時に出合い、一読したあとも折に触れて何度も何度もこの本を読みました。
迷った時、苦しかった時、この本が私の行く先を照らして、いつも励ましてくれました。
今から考えると、この本は私のポラリスにもなってくれていたのだと思います。
55の処方箋はどれもとても素敵で、どれも自分にとって大事ですが
私のとっておきの処方箋を2つ、ご紹介します。
処方箋1「人の心などわかるはずがない」
なんと第1章、いちばん最初の処方箋が「人の心などわかるはずがない」なんです…!
ここからも、河合先生のしたり顏が見えてくる気がします。
君はこの本を読んで、人の心がわかるようになると思っただろう、だけどその考え自体が間違いなのだよ。
と河合先生に、先生パンチ…じゃなかった先制パンチをお見舞いされる感じがするのです。
心理学者である河合先生は「他人の心がすぐわかるのだろう」とよく誤解されたとおっしゃいます。
でも河合先生は「人の心がいかにわからないかということを確信をもって知っているところが(臨床心理学の)専門家の特徴である」と言い切られています。
人の心はわからない。わかったような錯覚を起こして誰かを非難だけして、ものごとが解決したような錯覚を起こしてはならない。
簡単にわかると言えたらとても楽だけど、そうはいかない。人の心をわかろうとするのは、とても根気の要ることだ。
そうして河合先生が本を通してはっきりと教えてくれたので、私自身も「人の心を簡単にわかったと思うのはよそう」と思い
じっくりと、目の前のその人がどういう気持ちでいるのかを、けっして決めつけないようにして考えるくせがつきました。
処方箋9 「灯台に近づきすぎると難破する」
自分の理想は、人生航路を照らす灯台のようなものと河合先生はおっしゃいます。
灯台によって航路が照らされて、自分の位置が分かる。それは本当に素晴らしいこと。
だけど、灯台に近づいてきた時(=長年自分が理想としていたことが現実になりそうなとき、自分の夢が叶いそうになるとき)が実は一番慎重にいかないといけないということなのです。
ある目標に向かって突っ走っているとき。その時間はがむしゃらに日々を過ごし、充実もしているでしょう。
でも、その目標を達成してしまったら、どうでしょう?
燃え尽き症候群のように、がくっと力尽きてしまうこともあるかもしれません。
だから、何かある目標(灯台)に到達しそうになってきた時には、必ず次の目標(灯台)を見つけなさいと先生は示唆深いコメントをくださります。
灯台が近くに見えてきた時、じっと目をこらして見ると、はるか遠くに次の灯台が見えてくるはず。
だからいつも、航海を続けていくことができるのだと。
あらゆる目標の中間地点(灯台)を目指して航海を続けていくあなたの真上にはいつも
輝く北極星(ポラリス)があって、あなたの航海全体をいつも明るく照らしてくれているのだと、
私は先生の処方箋にちょっとだけ付け加えさせていただきましょうか。
天国にいらっしゃる河合先生、よろしければ認めてくださいますか。
未知の可能性に注目するうちに、うまれる「処方箋」
この本の中で、河合先生はこうおっしゃいます。
「現状を分析して原因を突き止め対策を考える“からだの処方箋”と違って、“こころの処方箋”は未知の可能性に注目して
そこから生じるものを尊重するうちに生まれてくるものである。」
私たちそれぞれが、生きて行く上で必要な「こころの処方箋」。
それはひとりひとりきっと、ちがうものなのかもしれません。
その処方箋は、いま目の前にある現実をひねくりまわして出てくるものではなく
これから先、未来の可能性に注目したときに、自分にやってくるものや考え方を大事にしていく中で生まれていくもの。
もしいま、この文章を読んでくださっている読者の方が
つらいなあ、くるしいなあと思っているなら
「こころの処方箋」が必要なのかもしれません。
自分だけの「ポラリス」があるように、あなただけの「こころの処方箋」もきっとあるはずです。
どうか「いま」だけではなく、これから先「未来」の可能性を信じたときにうまれてくる処方箋を
こころのお守りとして大事にしてください。
きっとその処方箋は、立ち止まってしまったとき、そっとあなたに寄り添ってくれるはずです。
河合隼雄さんの名著、「こころの処方箋」には
あなただけの処方箋を見つけるためのヒントがたくさん詰まっていると思います。
編集長 haru