「女ですもの泣きはしない」/ 湯川 れい子 (2018年) 編集長haruの心に効く今日の一冊
2019/01/05
編集長のharuです。こんにちは。
私は実はふだんは会社員をしていて、年末年始のお休みの間に色々記事を書き溜めています。
明日は年末年始のお休みの最終日。記事も書きながらゆっくりと、今年一年をどんな年にしていきたいか考えていきたいと思います。
今回の記事では、昨年出たばかりのこの本、音楽評論家の湯川 れい子さんの「女ですもの泣きはしない」をご紹介します。
ちょっと長めの文章になりますが、お付き合いいただければ、うれしいです。
湯川 れい子さんとは、どんな方なのか
1936年、東京都生まれ。音楽評論家、ラジオDJ、作詞家。
1960年、ジャズ専門誌「スイング・ジャーナル」でジャズ評論家としてデビュー。
エルヴィス・プレスリー、ザ・ビートルズ、マイケル・ジャクソン、シンディ・ローパーらと交流し
洋楽評論のパイオニアとして第一線を走り続けている女性です。
作詞家としてのヒット曲は「六本木心中」「恋におちて- Fall in love-」など多数。
2019年1月22日お誕生日を迎えられ、83歳になられます。
女ですもの泣きはしない
本のタイトルにもなっているこの言葉は、湯川さんが作詞家として手がけたアン・ルイスさんの「六本木心中」の中に出てくる詞です。
(今、haruはこの曲を聴きながらこの記事を書いています。今聴いてもめちゃくちゃカッコイイ。)
タイトルでは「泣きはしない」と言っていますが、本著を読んでもわかるように
彼女のこれまでの82年間の人生の中にも、やっぱり泣きたいこともいっぱいだったことと思います。
湯川さんは、どうしてこのタイトルをつけたのでしょうか。
アン・ルイスさんの「六本木心中」の歌詞を改めて見てみると
うぬぼれないで。女ですもの泣きはしない。と歌われますが、反面
あなたなしでは生きていけない。CAN’T LIVE WITHOUT YOU BABYとも歌われています。
毅然と運命に立ち向かっていかないといけないときもあるけれど
でも狂おしいほど誰かに頼りたく、すがりたくなるときもある。
女の人生は、色取り取り。
湯川さんのこれまでの人生での歩みを本著で垣間見させていただくと
このタイトルをつけた理由が、ふわっと薫ってくるような気がします。
湯川さん初の自伝でもある本書、なぜ82歳のいま書かれたのか
本著をいま書かれた理由として「80歳を過ぎると、そのぶん別れも増えしがらみからも解放されて、やっと書けることもあったのだと思う。」と書かれていて納得します。だけど、同時にこうも書かれています。
「実はこれで人生が終わったとは考えていない。まだまだやりたいことがある…と考えているわけではない。
いまの日本の政治や世界の情勢を見回すと、このままでは死んでも死にきれないというか、見届けたいことが多すぎる。」
だから、本著は彼女の履歴書のパートIとして読んでもらいたいと彼女は言います。
100歳まではまだ20年もあるのだからと。
湯川さんが見届けたいこと
湯川さんが見届けたいことって、どんなことなのでしょう。
戦時中、軍令部にいて働きづめだった父を肺炎で亡くし、
長兄は、フィリピンのルソン島で戦死して帰らぬ人となった。
母と聞いた玉音放送。
思春期の鬱屈の中、布団をかぶって耳を澄ませたラジオから、戦っていた異国の音楽が聴こえた。
その異国の音楽は、目の前で扉を開き、開かれた扉からは七色の光が差して自分を包んでくれた。
戦死した長兄が実は欧米の音楽を愛しこっそりとレコードを聴いていたことを後に知り
音楽が兄を通して心と体に入り込んできた。
ジャズとの出逢い、燃えるような恋。
音楽の仕事。エルヴィスとの出会い、そして、別れ。
出産と、夫の多額の借金・婚外子の発覚。離婚。息子の寺修行。
人生で行き交う人や出来事を見届けてきた彼女が、いま見届けたいものは。
いまの日本を、日本人をみていて感じることがあるということなのですが
ぜひ、本著を読んで確かめてみてください。
悩み・迷い・苦しみの溝からも、立ち上がる
この本の中で私がとても好きな箇所があります。湯川さんが悩みの溝から立ち上がるシーン。
「深くて暗い悩みと迷いと苦しみの溝の前で動けずにいた」ことがあったとこの本の中で述懐している湯川さん。
離婚から2年ほど経った頃、突然、体からエネルギーが抜け落ちる感覚に襲われたそうです。
還暦を過ぎて自分の家がない。音楽評論家も作詞家も、いつ声がかからなくなるかわからない仕事。
老いて住まいもお金もなくなったらと思うだけで不安が募った。その不安もまた湯川さんのエネルギーを奪ったのだろうと話されています。
そんな彼女を救ってくれたのは、思春期の頃にも一度大きく自分を救ってくれた音楽でした。
気に入ったリズムの音楽を聴きながらリズム通りに歩いているとやがて気づいたことがあったそうです。
それまではまったく気にも留めなかった夜の闇の中に漂ってくる梅や沈丁花(じんちょうげ)の匂いがわかる。
空の星も仰ぎ見るようになった。
今夜は月が出ているのか出ていないのか、気になるようになった。
そうしているうちに、体に少しずつエネルギーが、心にも力がみなぎってくるのがわかったそうです。
見えない「スイッチ」を押す何か
湯川さんにとっては音楽こそが、亡くなった大好きだったお兄さんとご自身をつなぐものであり
燃え盛るような恋を運んでくれたものでもあり
悩みの淵から救い出してくれるものでもありました。
音楽が湯川さんの中の見えない「スイッチ」を押してくれるきっかけになっているのかもしれません。
スイッチが押された湯川さんは、花の匂いや月の光を感じることができる自分を取り戻していきました。
私たちひとりひとりにも、そういう「スイッチ」をそっと押してくれる何かや誰かが在るはずです。
そういう人や物事に出会えることこそ、人生の仕合わせなのかもしれません。
花の匂いや、月の美しさをいつも感じられる自分でいられますように。
編集長 haru