「昨夜(ゆうべ)のカレー、明日(あした)のパン」木皿泉 元書店員akiが案内する物語の本棚
2018/12/21
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一樹は手品みたいにパッと消えてしまった。
テツコは夫の一樹を7年前に亡くす。
しかしその後も彼女は、一樹の父・ギフ(義父)と一緒に暮らし続けている。
この物語は8つの章があり、1章ずつ語り手が変わっていく。
各章の主人公たちと関わることで、テツコとギフの心が少しずつ変化していく。
「人は変わってゆくんだよ。それは、とても過酷なことだと思う。
でもね、でも同時に、そのことだけが人を救ってくれるのよ」とギフは言う。
「自分が歩いてゆくべき方向が見えた気がした。
少なくとも、嫌いではない方向へ進んでゆけば、いつかたどりつけるだろう」とテツコは気がつく。
この物語は優しくて温かくて、勇気をくれる。
特別なことは何も起こらない。
名探偵は出てこないし、大どんでん返しもない。
不幸ではないけれど生きにくさを抱えた人たち
何かにとらわれて身動きがとれない人たちが
毎日を生きる。
支え合い、励まし合い
気遣い合い、人と関わりながら
毎日を生きる。
悲しくても、悩んでも、騙されても
大切なひとが消えてしまっても
今日を生きる。
昨夜のカレーを食べて
明日のパンを買って
今日を生きる。
そんな何気ないことが
すごく愛おしく感じられる一冊です。
「昨夜のカレー、明日のパン」
木皿泉 河出書房新社/河出文庫
この本に出会ったきっかけ
私がこの本に出会ったのは2013年、この本が発売されてすぐのことです。その時の私は著者の木皿泉さんの名前も知らず、手に取ったのはタイトルに惹かれたからです。そしてその時すぐに購入したわけではありませんでした。しかしその後も、書店に行くたびにこの本が目につき、手に取り、パラパラとページをめくっては、元に戻すを繰り返していました。
そして2016年、文庫化されたこの本が書店に並んでいるのを見つけた時、今度はためらわず購入し、一気に読みました。読了後「もっと早く買えばよかった…。やっぱり出会うべき本だったんだ…。」と強く思ったことを覚えています。
私はテツコやギフのようにとても身近な人を失った経験はありません。
しかし、テツコやギフ、各章に出てくる生きづらさを抱えながらも必死に生きている人たちの気持ちはよく理解できます。
特に心に残っているのは「パワースポット」という章です。
初めは主人公の心の痛みに胸が締めつけられました。
しかし、眠っていた本来の彼女の強さが彼女を駆り立て、今の困難から抜け出そうと頑張る姿はとてもかっこよく、彼女を応援しながら読みました。
この本は私に勇気の出る言葉をいくつもくれました。悲しみの中にいる時、寄り添ってくれました。
そして「今日を生きる」ということが、誰にとっても悩みや苦しみが伴うけれど、困難と同時にとても素晴らしいことだと教えてくれました。
私はこの本を何度も読み返します。
会いたい人や会いたい言葉があり、いつだって「大丈夫だよ」と励ましてくれるからです。
ライター aki







