ポラリス・ア・ラモード

書評(aki/ものがたり)

「にじいろガーデン」小川糸 元書店員akiが案内する物語の本棚

aki

2019/01/17

 
 
ここではないどこか遠いところへ行きたい
新しく人生をやり直したい
もっと、自分に正直に生きたい
 
そう願っていた2人の女性。
 
高橋泉。
夫と別居中で育児ノイローゼになりかけながら
一人息子の草介を育てていた主婦。
 
島原千代子。
心に秘めていた事を親に打ち明けたら恥知らずと罵られ
駅のホームで泣いていた高校生。
 
泉は千代子に声をかけ、
彼女の自殺を止め、食事に誘う。
そして、星空を見上げながら身の上話をするうちに
どんどん魅かれあい、お互いをかけがえのない存在であると確信する。
 
2人は同性愛者だ。
そして星の綺麗な場所で一緒に暮らす決意をする。
 
日本一星空が綺麗に見え
棚田が延々と続く土地が広がり
冬になると雪に埋もれてしまう
通称“マチュピチュ村”。
 
泉、千代子、泉の息子の草介
そして千代子のお腹の中の新しい命(名前は“宝”)
母二人、子二人の新しい家族は
世界のはじっこのようなこの場所を
世界一居心地のいい場所にすると誓う。
 
 
マチュピチュ村に越してきた彼らは
新しいもの3つを作る。
 
1つ目は新しい名字「高島」
お互いの名字から一文字ずつとって作った。
 
2つ目は「ゲストハウス虹」
廃校になった小学校を修繕して
自分たちの家とゲストハウスを作った。
どんな人でも拒まずに
ありのままを受け入れる開かれた安らぎの場所だ。
 
3つ目は「虹色憲法」
 
・自分には決して嘘をつかない。
・1日に1回は、声を上げてげらげら笑う。
・うれしいことはみんなで喜び、悲しいことはみんなで悲しむ。
・絶対に、無理はしない。
・辛かったら、堂々と白旗をあげる。
 
何度も家族会議を開いて決めた
タカシマ家の憲法。
特別なことはないけれど、全てが大切なことだ。
 
家の前に、性的少数派を象徴する
“レインボーフラッグ”を掲げて
新生タカシマ家の生活が始まる。
 
 
 
この物語は私にたくさんのことを教えてくれ
また、たくさんのことを考えるきっかけをくれた。
 
ありのままの姿で正直に生きることの大切さ。
自由に生きる素晴らしさと、それに伴う困難。
家族の存在の心強さと安心感。
どんなに苦しくても、いつか笑える日が必ず来るという希望。
 
 
愛おしくて優しくて
ちょっぴり悲しいタカシマ家の物語。
 
 
 
「にじいろガーデン」
小川糸 集英社/集英社文庫

家族とは

 
この本は《家族のあり方》教えてくれた。
ただ一緒に暮らしているだけでは家族にはなれない。
お互いが思いやり、努力をしなければ
「家族」を維持することは決してできない。
 
血縁関係も性別も年齢も関係ない。
血の繋がりなどなくても家族になれることを
タカシマ家は見事に証明してくれた。
 
しかし、タカシマ家は何度も困難に襲われる。
他愛もない家族の喧嘩、嫌がらせ、病気…。
同性同士で一緒に生きていく困難や
社会の壁が立ちはだかることもある。
 
しかし、どんなに苦しい時も
泉は強さで、千代子は明るさで
草介は優しさで、宝は元気さで
お互いを支え合い、乗り越える。
 
ただ愛し合い、想い合い、一緒にいることが
幸せでたまらないということが痛いほど伝わってくる
愛と思いやりに満ちた家族を創ったのだ。
 
 
タカシマ家は4人がそれぞれが
自分の長所を活かして家族を支えている。
 
この物語の登場人物の中で一番心に残る人物は
長男の草介。彼の長所は優しさだ。
 
妹が産まれる時には出産に立ち会い
そのキラキラとした命の輝きに感動し、
「たからものの“宝”」と妹の命名をした。
 
いつだって周りの人を気遣い、
相手を思う優しさをもっていた彼の物語は
優しくて、優しくて、優しすぎて、苦しかった。
 
タカシマ家の憲法、虹色憲法をすべて破った草介。
優しさを他の人に与えるだけでなく
自分自身にももっと優しくなってと声をかけてあげたかった。

同性愛、同性婚について

 
現在、日本の法律で同性婚は認められていません。
しかし、同性愛者の方はたくさんいて
日本では人口の7.6%がLGBTと言われています。
 
性的少数者として「LGBTQ」がよく知られていますが、
一人ひとり愛や性のあり方はさまざまで
世界には人の数だけ愛や性の形があると思います。
 
出身地や肌の色と同様に、
性的指向も自らの意思で選択できないのだから
差別するべきではないという考え方は
すでに多くの国で共有されています。
 
しかし、日本ではまだまだ性的少数者に対する理解がされておらず
自分らしく生きられず苦しんでいる人がたくさんいるのが悲しい現実です。

愛と性のあり方

 
私は、人の愛や性は「色」のようだと思います。
 
この世界で「名前のある色」はほんのひと握りで
自然がつくりだす色には名前がありません。
 
例えば、空の色、
朝日が昇る時の空の色、夕日が沈む時の空の色。
 
海と波が交じり合う色、夜空に光る月や星の色。
 
鬱蒼とした森や、爽やかな林や、鮮やかな花の色。
 
様々な色が混じり合い、グラデーションを作り
名前のない、唯一無二の色が生まれます。
 
そして、その色の感じ方も、
100人いれば100通りあるでしょう。
 
 
人間だってそうだと思います。
 
「男」と「女」に分けて
「性的指向」(どの性別を好きになるか)や
「性自認」(自分の性をどう認識するか)を
一律に決めることなどできないはずです。
 
それならば、それをそのまま受け入れたい。
ありのままの色で、姿で
その人を、認めたいと強く強く思うのです。
 
 
ライター  aki