ポラリス・ア・ラモード

書評(aki/ものがたり)

「どーしたどーした」天童荒太 元書店員akiが案内する物語の本棚

aki

2019/01/03

 
 
人を助けるのにスーパーヒーローなんていらない。
好奇心旺盛な男の子でじゅうぶんだ。
 
ヒーローに変身する決め台詞なんていらない。
彼の口癖の「どーしたどーした」でじゅうぶんだ。
 
 
彼の名前はゼン。
ゼンはいろんなことが気になって仕方がない。
 
キッチンで困ってるママに「どーした」
リビングでくつろいでいるパパに「どーした」
部屋で怒っているお姉ちゃんに「どーした」
 
ママの話が終わっても
ゼンは、また聞く「で、どーした」
 
パパの機嫌を損ねても
ゼンは、やっぱり聞く「で、どーした」
 
お姉ちゃんが不満を言いつくしても
ゼンは、もちろん聞く「で、どーした」
 
ゼンの「どーした、どーした」に
家族はみんなウンザリ顔。
 
 
ゼンは自分が何回も「どーした」を言うと
みんなが怒るのを知っている。
ゼンは「どーした」をとめてみた。
そしたら息ができなくなっちゃった。
 
だってゼンはいつだって
いろんなことが知りたくて仕方がない。
 
 
ゼンの「どーした」は家の中にとどまらない。
知らない人にも「どーした」と声をかける。
 
 
ある朝、ゼンは公園で見知らぬ同い年の男の子と出会う。
名前はミツ。
ミツは顔や体に怪我をしていて、学校にも来ていない。
ゼンはびっくりしてミツに聞く「どーした」
ミツのこたえは「… …いつものことだから」
 
 
学校、児童相談所、ミツの家の近所で
ゼンは「どーした」を繰り返す。
ゼンはミツが気になって仕方がない。
 
しかし、ゼンの「どーした」は伝わらない。
 
忙しいから、プライバシーがあるから、
関わり合うのはわずらわしいからと
ゼンの「ミツはどーした」に
大人は誰も耳を傾けてくれない。
 
ゼンの「どーした」は大人たちに届かない。
 
 
しかし、ゼンはあきらめない。
「どーした、どーした」を繰り返す。
ゼンはミツのために
「どーした」をあきらめない。
 
そしてゼンは走り出す。
 
 
 
「どーしたどーした」
天童荒太・文  
荒井良二・絵 
集英社

ゼンという存在

 
ここまで読んで、あなたにとって
ゼンはどんな少年に感じますか?
お節介なうるさい少年に感じますか?
 
ゼンの口癖の「どーした」は
「What happened?」だけを
意味しているわけではないと思います。
 
心配を表す「だいじょうぶ?」
気遣いを表す「気にかけているよ」
関心を表す「いつもみてるよ」
思いやりを表す「いつでも頼ってね」
勇気づけるための「ひとりぼっちじゃないよ」
友情を表す「あなたのことが、たいせつだよ」
愛情を表す「あなたのことが、だいすきだよ」
 
こんな思いを人に伝えられる言葉
それが「どーした」だと思うのです。
 
 
私にとってゼンは、
他人に関心を持つ大切さ
お節介の大切さを教えてくれる
愛おしく貴重な存在です。
 
愛の反対が無関心なら
関心の塊のゼンは、愛の塊です。
 
この本を読み終えたあと
きっとゼンをぎゅっと
抱きしめたくなると思います。
そしてゼンが教えてくれたことが
どんなに大切なことかに気がつくと思います。

この絵本から現実を考える

 
現代を生きる私たちは
自己中心的で、他人に無関心になりがちです。
 
無関心から
生まれる悲劇はいくつもあります。
 
虐待で奪われる幼い命
いじめで自ら命を絶つ子供たち
悩みを抱え込んで苦しんでいる人
忙しさや人間関係で心を病んでいく人
誰にも気付かれずたった一人で亡くなる人
 
悩んでいたり、孤独だったり、
死んでしまいたいと思った時
「どーした」と声をかけられたらどう感じるでしょうか。
 
悩みや問題はすぐには解決しないでしょう。
でも、必ず何かは変わると、私は思います。
 
声をかけてくれる人がいることが
気遣ってくれる人がいることが
どんなに心強いか、私は知っています。

この絵本が持つパワー

 
ゼンは
ただただ相手が気になっているだけで
見返りなど求めていません。
 
このゼンの行為は
ポラリス ア・ラ・モードの
第一回のインタビューを受けてくれた
mayuさんのポラリス
《みんなでしあわせになること》に繋がると思います。
 
もし、あなたが困っている時
「どーした」の声が聞こえてきたらどうですか。
そして、その声に助けられたり、救われたとしたら
次にあなたが困っている人を見かけた時
「どーした」と声をかけてあげたくなりませんか。
 
「どーした」を受け取り「どーした」を渡す。
「どーした」の循環は
《みんなでしあわせになる》ヒントだと思うのです。
 
 
この本を最初に読んだ時、
ゼンの優しさ、人間の善意に感動し
世界を平和に導く方法が書かれた
魔法の本を見つけたような気持ちがしました。
 
この世界を愛で満たし、幸せにするためには
まず、他人に関心を持つことから始めよう。
合い言葉はもちろん「どーした」だ。
 
 
ライター  aki