株式会社Fianco代表・スーツ コンシェルジュ / 原 毅郎さん「自己概念さえも変えてくれる装いを届けたい」《後編》
2019/03/25
インタビュー polaris for YOURSELF vol.6
株式会社Fianco代表・スーツコンシェルジュ / 原 毅郎さん
「自己概念さえも変えてくれる装いを届けたい」
《後編》
自分の生きる上での指針やポリシー、「ポラリス(=北極星)」を持つ人たちのインタビュー。
大阪市・中津駅すぐに工房つきサロンを持ち、オーダースーツを取り扱う株式会社Fianco~Suit-Barista~の
代表をされている、原 毅郎(はら たけお)さんをお招きして、2018年8月にサロンを持つまでのストーリーをお伺いしました。
子ども時代から学生時代、社会人と成長していく中で、原さん自身がどうやって自信をつけて
本当に好きなことに向かっていったかということは、前編から是非ご覧ください。
そして独立。家族の応援もあった
haru: 実際にいつ独立されたんですか。
Take: 副業を始めてから3年後くらいですね。
haru: 前半でもお伺いしたように厳格なご家庭で育った原さんですが親御さんからの期待もあって入った銀行を辞めて、服飾で独立というのには反対はありませんでしたか。
Take: 週末にスーツのことをやっていたのは親も知っていて、銀行は続けないんだろうな、スーツのことをやっていくんだろうなというのは思ってくれていて。
特に、父親は自分が応援団長になると言ってくれたので嬉しかったですね。
haru: 信頼があったんだろうな。3年間副業をしっかり続けてきたことも見てくれていたんですね。素晴らしいです。
Take:独立してからは、副業時代のお師匠さんに表の生地屋さんや裏地屋さん、職人さんも紹介してもらって、まず最初はスーツの上下だけを仕立てられる状態を作りました。
その後、スーツだけではなくてシャツや靴など、アイテム数を増やしていきました。
男性のもの中心ですが、ネクタイやベルトや鞄なども、関わる職人さんが増えて行くごとに仕立てられるものも増えていきました。
服を通してやっていきたいこと
haru: 服を通してどんなことをやっていきたいですか。
Take:ひとことでいうと、自信を持って欲しいと思っています。前半でもお話しましたが、真面目に育ちすぎたところもあって自分も自己概念がかなり低かったんです。それが、服を通して自信をつけていくことができた。そういう体験を皆さんにも持ってもらいたいと思っています。
haru: 服やファッションって、苦手意識を持っている人も多いと思います。
Take: そうですね。センスが必要と思っていたりとか。でも、特にスーツに関しては企業研修や着こなしセミナーでもお話ししていることなんですが、はっきり言ってセンスは要りません。
haru: え!?そうなんですか。
Take: はい。しっかりしたルールがあるので、実はセンスは必要ないんです。
僕は、まずはネイビーのスーツに白シャツ、黒靴でいいよとお話します。奇を衒う必要は全くなくて、第一印象はルールに則ることさえできれば誰でもしっかりと作れるからわざわざダサくなるなんてもったいないと思っています。
haru: 周りの方々を見ていて、もったいないなと思うことって結構あるんですか。
Take: 電車に乗ってたりすると、実はほぼほぼ思います。装い方だけで言うと単純にダサいな、もったいないなというふうに思いますが、もっと深掘りして考えてみると、自分のことをそんなには大事にしてないんやろなと思うこともあります。
haru: 自分のことを大事にしていない・・・?
Take: はい。ヨレヨレの服を着ている自分を鏡で見て、ほんまに自分のことをかっこいいと思いますか。と聞いたら多分イエスじゃない人が多いと思うんですよね。自分のことを大事にしていないか、言い換えれば自分のことに無関心か。
ちょっと関心を持ってあげたら、ほんとにルールを守るだけで素敵になれるし、素敵な感情を得られる体験があるのになと思います。
自分に似合う服を着ると人はどうなるか
aki: スーツってとても両極端な気がしていて、とても安いものから、高くて奇抜なものまでいろいろありますよね。
Take: はい。僕は本人の目的に合っていたら例え安いものでも素敵だと思っています。安くてもサイズさえ間違っていなければ 絶対印象を外さないので。いわゆるいいスーツを着ようねと言いたいわけでは全くないです。
haru: 自分に合う服とか、似合う服を着ると人はどうなるんですか。
Take: まずは周りから褒められるはずです。 褒められた時にはじめて、特に男性はスーツも捨てたもんじゃないなというような感覚を得るんだと思います。
先に褒められるという体験がないと、外見がいかに重要ですということを言っても響かない。
ファッションが元から好きな人にはすぐ響くと思うけれど、そうでない人は「いやいや、心は錦だぜ」という風に思ってしまうんですね。日本人は、「中身で勝負!」しようとする人が多い。
haru: ファッションが好きな人と全く気にしない人は両極端かもしれないですし
気にしない人は着るものなんてどうでもいいと思っている人も多いかもしれないですね。
自信をつけていったお客様たち
haru: 元は気にしないタイプだった人がすごく変わったという例はありますか?
Take: ある結婚相談所の社長さんと、僕は仲がよくて。その結婚相談所の会員さんなんですが、元はそんなに服にも興味を持たれていなかった方に服を仕立てさせていただいたのですが、その方は新しい服について何度も周りの方に「これいいでしょう」と言ってくださっていたようなんです。
もちろん外見もバチコンって変わられたんですが、その後お話されている様子を見ているとかなり自信を持たれたようにお見受けしました。
ビジネスをやっている人は仕立てをしたあとに成果が出たよという人もいましたし、結婚式のタキシードを作られて、思い出に残ってめちゃくちゃ嬉しいですという方もいました。
haru: 外見が変わって、今まで褒められたことがなかった人が外見を褒められて、自己評価が低かった人も
周りの方に素敵ですねと言ってもらうと最初はちょっと照れくさいだろうけど、その後少しずつ自信をつけていかれるんですね。
Take: 最初は確かに照れくささはあるかもしれないけれど、そこを受け入れてあげたらすごいハッピーになれると思っています。
昨年結婚して公私ともに充実。奥様との一枚。
服を仕立てるプロセス
haru: 具体的には、服を仕立てるプロセスはどうやって進んでいくんですか。
Take: カウンセリングシートを作っているんですが、代表的な質問は三つあります。
1. どこに着て行きますか。着るシーンはどのようなシーンですか。
2. どなたにお会いしますか。
3. どんな印象にしたいですか。セルフイメージを決めていますか。
という三つの質問ですね。そうすると着るべき色や素材感が導かれてきます。
一方で、今 持っているスーツの色や素材を教えてくださいという質問をもしていって、今持っているスーツとの整合性を確認して行きます。たくさんネイビーを持っている人が今回もネイビーでいいんでしょうか、と確認したりしますね。
haru: 自己肯定感が低くて、自分に衣装なんてもったいないと思う人へはどうやってアプローチしていきますか。
Take: 皆さんへ「どういう印象で見られたいですか」とか逆に、「どんなふうには見られたくないですか」という質問すると教えてもらえたりします。あるいは、どんな芸能人や著名人に憧れていますかという質問をすることもあります。
聞くと、抽象的であっても何かあるので、それを質問でさらに掘り下げていくとその方の理想が分かっていくんです。
イメージができてきたら、最初は色とサイズのバランスだけ押さえればOKだと僕は伝えています。
パーソナルカラーを知って行こうとか立体的な仕立てってどういうのだろうとかそういうのは後からでもいいと思っていて。
haru: 共通してみなさんに伝えているメッセージはありますか?
Take: セミナーではまずはじめに「あなたは素敵になっていいって知ってました?」と投げかけています。
自分のためにも、周りのためにも装いましょう!とお伝えしていて、その後に、スーツに関してはこういうルールがありますよというをレクチャーしていき、最終的にオーダースーツを作ることもできますとお話しています。
サヴィル・ロウでの本物のクラフトマンシップとの出逢い
haru: 話は変わりますが、そういえば外国も行ったりするんですか?
Take: ロンドンのサヴィル・ロウ(イギリスロンドン中心地のメイフェアにある通り。オーダーメイドの名門高級紳士服店が集中している)に昨年9月末から3週間ほどいってきました。「背広」の語源ともいわれている場所です。
ほんとに、鼻血が出そうになりました(笑)
aki: ロンドンのファッションはほんとに格好いいですよね!
Take: めちゃくちゃ格好いいです。クラフトマンシップと言うか、職人の魂たるややべーなということを感じました。
内側でめっちゃ燃えてるんですよね。圧倒的に何かをワーワー言う感じではなく、静かに燃えている感じ。
サヴィルロウの 仕立て屋さんがずっと続いているような、由緒正しきところで スーツが生まれたんだなと思うと感慨深かったです。
行ってみてわかったんですが向こうのスーツは無地なんです。シャツの襟とかがちょっと違うというそんな感じ。
そのちょっとの違いにこだわりが出る。現地で感じ得たものはこれからも大切にしたいです。
サヴィル・ロウでの一枚。
原さんがこれからやりたいこと
haru: これまでの経験を経て、これからどういうことをしていきたいですか。
Take: 主には二つあります。一つは職人が職人を産む仕組みを構築していきたいというものです。
高齢化していて若手の縫い手さんって 今いないんですよね。後継者がいない。縫製に関しては日本では、大阪が発祥の地なんです。洋服は神戸が発祥だけど、縫うのは大阪がは発祥。その時からチクチク縫っているおじいちゃんたちと僕は今やり取りをしています。その方々も70 80オーバーで、その後はスコーンと既製服が流行っちゃって縫い手さんが 育ってないんですよ。
実はうちで今回33歳の方を雇用させていただきました。男性の服って一番縫製が難しいんですが、それをやりたいっていう人で、そういう方が活躍できる場所を提供したい。
職人が職人を産むという仕組みを作りたくて、それを具現化するためには工房がないといけないと思っています。
なので、工房つきのサロンを中津に作りました。
もう一つは、やり方としては企業研修ですね。今までご縁があった人は何かの事業をしている方が多く、
時間もお金もスーツにかけられるよという方が大半でその方々との ご縁はすごくありがたかったんですが
日本のビジネスマンを元気にしようと思ったらほぼほぼサラリーマンなんですよね。
そこにこそ価値観が伝わらないといけないなと思ったんですが、いきなりみんなに似合うスーツを買ってねというのはハードルがめちゃくちゃ高い。
まずは企業研修で持っているスーツのサイズ直しだけでもいいのでやってみてくださいとお伝えしています。
サイズを直しただけでも、ぶかぶかだったスーツが素敵になり褒められる。まずはその体験をしてほしいと思っています。
内面のいちばん外側が装いであり、スーツ。それを変えることで内面までも変わっていく
haru: 原さんにとって、スーツや装いとはなんですか。
Take: 内面のいちばん外側が、スーツや装いだと僕は思っています。
内面と外見を分けて考える人は多いけれど、僕は繋がっていると思っています。
たまたま一番外側にあって見えているのがスーツや装い。価値観や自己概念を変えるというのは 時間がかかったり、
人によったらもしかしたら無理というふうに捉える人もいるかもしれませんが、ルールさえ知れば外見はパチッと変えられます。
そこから自分の内面も徐々に変えていけば良い。外見を変えることから、それぞれの自己実現に向かって行ってほしいなと思っています。そのために自分は縁の下の力持ちとしてサポートしていきたいです。
実は、変わりたいと思っている人たちに対して、僕は本人たち以上に
彼らが変わっていくことに期待をしているんじゃないかと思っています。
あなたは絶対に変われる。あなたがもしそうは思っていなくても僕は変われると思っているぞ、という気持ちです。
この仕事はほんとうに楽しいです。こうして自分が好きなことに出会えたこともハッピーだし
情熱を注げていて、それが仕事になっていることがとてもありがたいなって思っています。
インタビュー後記
「内面のいちばん外側が装いであり、スーツ」
たまたまいちばん外側にあって見えていて変えやすい外面を変えていくことで、内面も変わっていってほしい。
そうした気持ちで仕事に当たられている原さん。機会があれば彼に是非スーツを仕立ててもらって
新しいあなたに出逢ってみてほしいなと思っています!
*Fiancoはイタリア語で、「寄り添う」「そばにいる」という意味。常に近くで寄り添うコンシェルジュのように洋服を仕立て、
編集長 haru